フィルムカメラの時代に発売されていたら伝説として語り継がれる銘レンズになっていたと思います。しかしレンズ性能はデジタル化で飛躍的に向上しました。誰もが簡単に等倍の画像を比較できるので要求される解像力が厳しくなったこと、また、色収差や歪曲収差はPC上やカメラ内で簡単に修正できるので、そちらに目を瞑れるようになったこととで、レンズ設計の哲学が大きく変わりました。デジタルの基準で、このレンズは凡庸です。この程度の性能ならわざわざフルサイズを買う意味がないかもしれません。オリンパスやパナソニックの安価な25mm単焦点レンズで十分です。 このレンズの価値は、ライカ以来の35ミリカメラの標準レンズが捉えてきた大量の写真、ブレッソンや木村伊兵衛の50mmレンズの世界を再現できることにあると思います。デジタル用のレンズほど細かい部分までくっきりと写らないし、当時の感度の低いフィルムのために絞りは開けざるを得なかったから被写界深度はどうしても浅くなる、そういう仕方なしにそう写っていた写真が、実は私たちの中にある写真らしい写真だと思います。本物らしい写真ではない、写真らしい写真を撮るのに、このレンズは相応しいと思います。 不満なのはレンズの性能というよりもソニーのAFのアルゴリズムの問題なのか、一度行過ぎて戻るため、余計に煩く響くAFのモーター音です。